金属に焼入れ出来た文化は多数有りますが、焼戻しまで出来た文化は、今だに刃物で有名なところだけだと思います。成分さえ刃物をしなやかに強靭にする為に合金とする技術は一部の地域でしか生まれませんでした。
私の工場では鍛造で使う金型を100%内製していましたので、旋盤などの工作機械を用いたりヤスリで仕上げたり真っ赤にして型押ししたりして金型を作り焼入れ焼き戻しを施し研磨し仕上げていました。だいたい800度くらいの温度で焼入れを施すのですが、色合い的には明るいオレンジから黄色っぽくなり表面に陽炎のように炭素が析出する一歩手前くらいの温度まで加熱し、なるべく酸素に触れないよう一瞬で油や水・・時には塩水に漬けます。軸を成型するためのダイスと呼ばれている金型は割れにくくするためと穴の硬度を上げるために水を上面や穴だけ触れるようにしたポンプ式の機械(内製)で入れていました。熱処理室は赤熱発光する色合いが分かりやすくするために暗くしてあるのですが、暗い赤から明るく、そしてオレンジになり黄色に輝いて行く様がとても綺麗でずっと忘れられない思い出になっています。焼き戻しも焼入れ品をキレイに磨き油分が付かないよう気を付けて焼き戻し炉に入れ、また色合い変化を観察しながら指定硬さになるよう戻して行くのですが、これも黄金色から茶、紫、青と徐々に変化し最後は薄い青から白(銀色)に戻りいずれ薄く赤熱が始まります。薄い茶色が200度くらいで濃い青から薄くなった青色が300度、ココをブルーイングって呼びダメな時と利用する時と両方です。みなさんが目にされるバネ鋼はココですね。なんでどっちつかずの性格になってます。
工作機械で金型を仕上げて一服と言う訳でもないのですが、魂を入れる作業と言うか、とても落ち着いた時間です。赤熱した塊を一瞬で水にバシャと入れ、箸を通して塊の回りに水泡が立つ感じ、他には無い感覚、完冷を避けるため水泡が収まってきたら引上げる瞬間、心が洗われる感じが焼入れです。
ちなみに焼き割れって水でも塩水でも漬けた瞬間に割れた事は有りません、水泡が収まってもまだ引上げないと割れてしまいます。ガラスじゃないから熱衝撃では割れません。MS点通過後にマルテンサイト化し膨張が始まると歪で割れます。だから、ジュワジュワー、シュー、プスプスで上げる感じです。