アイキャッチ画像はねじのリード角説明の際によく用いられているモデルですが、比較出来る斜面が有るので、着色したフランク面の長さがかなり長いと実感できます。もし全てのフランク面を斜面で表して画面に表示させたらネジはかなり小さくて見えなくなってしまうと思います。

コの字断面でピッチも通常三角山の二倍くらいあるモデルですので、普通山や細目なら尚更長い事になります。

このリード角を表す斜面が締付ける事によりクサビ効果を発揮してモノを締結する構造がネジですが、とても長いクサビ構造となっています。

実際に全ての斜面でクサビ効果を発揮出来るでしょうか?(全ての山に均等に力を分散出来るでしょうか?

ネジですので雄ねじは軸の周りに螺旋が切られていますが、軸ですので引っ張る力は働けば当然伸びます。伸び方は様々で螺合していないネジ部がもっとも伸びて、螺合した部分では口元付近が3山程度だけ伸びて後半は殆ど軸が伸びるような力は発生しません。口元も1山目で雌ねじ山と雄ねじ山がロックするように嵌合してしまい、中の軸が螺合していない軸に引っ張られるかたちで3山程度伸びる感じです。

クサビが効くのは実際には3山も無いでしょう。・・それでも3山が完全にクサビ効果を発揮出来れば相当弛まない構造ですが、殆どの強い接触は口元第1山に集中してしまうので、アイキャッチ画像のねじの原理でのクサビイメージとは違っていると思います。

雄ねじ谷底第1山、偏りの有る応力分布は引張荷重に強くても疲労荷重では極端に弱くなります。
シーソーのように左右に振られ破断を促すカタチになっています。この構造で耐えてる現在生産されている螺子はとても強く出来ている事になります。

4山目以降も確実に接触しているので意味がない訳では有りません。

しっかりとした支えが有るから口元付近で軸力を負荷する事が出来るので螺合部長さはある程度長い方が良いです。

一般的なねじの特性は上記の通り螺合している全ての面で均等なクサビ効果は得られません。
アイキャッチ画像のようなコの字断面の山では面同士が回転方向にのみ傾斜を持つので、クサビを長くすれば傾斜が緩かったとしても外力により面同士が滑りゆるんでしまう事になりますが、締結に用いるねじは三角山ですので山断面の傾斜がリード角よりはるかに大きいクサビ効果を発揮しゆるみ難くなりますので、より長い接触面を得られればさらにゆるみ難くなります。三角ねじで有っても外力による振幅で面が離れるたびにゆるみ方向へ微細に滑る研究もされていますが、上記画像のような通常のねじを前提としていますので
、各山で有効なクサビ効果が得られれば一部の山で振幅を繰り返したとしても他の山が滑りを止められるので微細な滑りも発生し難くなります。(回転ゆるみ前の微細な滑り)

各山へ均等に力を分散させる方法は文章で書くなら簡単です。

雄ねじの伸び方に合わせ予め雄と雌ねじのピッチに差を与え設定した軸力で各山への力が均等になるようすれば良いだけです。

理論上は確実に均等に分散が可能ですのでCAD上なら均等に応力分散するモデルをつくれますが、現実にはかなり微妙なピッチ差ですので正確に実現する事が難しい事と”設定軸力”だけしか均等にはなりません。

それと一定条件では振幅に弱く雌ねじと勘合した中間部が振幅で離れたり接触を繰り返すことで、面が叩き合ってしまい雌ねじの中で疲労破壊されます。

ピッチ差を設ける場合は、山断面を工夫するなりして衝撃を和らげる工夫が必要に感じますが、作るのはさらに困難となってしまいます。

他の考え方として、雄ねじ側、雌ねじ側の山断面を変更し弾性や滑りを得て各山の分散をはかろうとする考えが有りますが、”軸は伸びる”が前提ですので山同士の間で弾性や滑りが有り軸が伸びるなら、口元ではトータルでかなり伸びてしまい最終山ではかなり負担となってしまいます。

一見良さそうな考え方ですが、程度が小さくても通常のねじに対して確実に口元での疲労が増します。

アプローチを変え、

もし口元第1山での強い応力集中と偏った力が無かったら?

そして非螺合部での軸の伸びを自然と螺合部に導く事が出来たら?

締付時により多くの山に荷重できるのでは、

Helico螺旋は各山に積極的に応力を分散させる目的では無く、螺旋に導入部を設ける事で普通よりは各山に分散できると思い開発しました。もちろん「疲労」がテーマとなっていますので口元で疲労しないよう応力集中と偏った応力が発生しないよう設計してありますが、軸力が低下すれば疲労しやすくなりますので、やはり出来るだけゆるみ難く、トルク法にて出来るだけ正確な管理が出来るよう設計してあります。

・・違う角度の断面でピッチを可変させながら切り取るので上記二つの考え方のハイブリッド構造かも知れませんが、積極的に各山分散を目的にした構造では有りません。

CAE解析では「ピッチ差を設ける」カタチが一番分散出来ました。

Helicoは現実的なねじの世界・・量産される雄ねじでは”ねじ部打痕ゼロ”にならない事や、加工しやすさ、有効径が正確に測れない雌ねじを仕上げる事を狙いとしています。


量産ボルトの製造では、熱処理・鍍金等の処理時や輸送時に打痕が発生してしまうため、ゲージを通過する程度の打痕までゼロにしお客様に提供する事が困難な現状です。


     Helico螺旋は石臼のように雄ねじ外周に付いた打痕を潰してくれます。
  

ゲージを通過する微細な打痕でも、一般的な雌ねじ構造では下の画像のように口元で最初に接触する部分はねじ外周部ですので引っ掛かりが発生すれば正確な軸力が得にくくなります。ダコンを吸収できる導入部形状はは締め付けトルクに対しての軸力を安定させるため必要かと存じます。

「ねじの疲労を改善する」テーマは、なんとも複雑で簡単な説明が出来なく恐縮です。
簡単には「非回転ゆるみを小さくする→トルク法での管理を容易にする→応力集中を避け横応力の発生を無くす」で改善出来ます。

* 各山分散の方法はもう一つ、ねじ山をテーパーに切り取り徐々にフランク面に接するようにすれば分散出来ますが、雌螺子口元からテーパを切ると下の接触が強くなりダメです。テーパーは雄ねじの頭部側に向けて細くしてください。解析を始めて一番最初に気が付いた事が「テーパーってこういう事か」、そして口元の面取り角を解析した結果、JIS規格通り両角90度が一番良い事を確認しました。何故かは下の画像の口元中央付近で雄ねじ外径に接触する角度になり、角度が緩いと応力の偏りが強く、角度が大きいと雌ねじ接触部が薄く変形しやすくなる。両角90度くらいがちょうど良いと思います。(大きい方がマシ、両角60度以下は避けてください。強い横応力によりねじが疲労します)この解析経験が10年以上経てHelico螺旋面開発に繋がります。